2011.12.31
【Best Disc 2011】 Kip Hanrahan "At home in anger"
●Kip Hanrahan "At home in anger"
キップ・ハンラハンは、ペシミスティックであることに実はほとほと嫌気がさしているのかもしれない。
アルバム1曲目、歌詞には相変わらずの重さを含みつつ、諦念だけでない気楽さが漂う「Vida sin miel」。キップの長年にわたる盟友でもあるアルフレード・トリフのヴァイオリン演奏を聴いてみてほしい。かつてそこにあった闇、その霧散を思わせる名演である。これまでなら候補からあえて外すような明るい曲調では、との問いに「その通りだが、逆にそれが面白いと思った」などと答えるキップの天邪鬼ぶりは変わらないけれど。
続いてブランドン・ロスのスウィートネスが際立つ2曲目、さらに半ばむりやり編集によってメドレーとしてつなげられたとおぼしき3曲目の、今度はフェルナンド・ソンダースのファルセット・ソウルへの流れなど、まるでマーヴィン・ゲイ『What's going on』のようにメロウな輝きを誇っている。(そういえば、キップの初期の作品にはスモーキー・ロビンソン的なポップスをめざしたというアルバムもあった。今作とは対照的に、あれは彼にとってほとんど唯一の迷走したアルバムではないかと思っているのだが、それはともかく。)
それにしても、オラシオとアミーンのダブル・ドラムスは無敵の奔放さである。ラテン音楽の基本となるクラーベのリズムと四つ打ちとを合体させるこのリズムによって、あらゆる音楽の断片を、同時的に共存させることを可能にした。いまやそこに、楽曲らしさまでが備わりつつある。キップ・ハンラハンはおそろしく多弁な人だが、自分の音楽に対するそのような分析にだけにはのってこようとせず、そういうわけで余談話の比重が多い感はあるものの、それにしてもさんざん面白いを本人から訊くことにもなった。そのインタビューをまとめることから、2012年最初の仕事がスタートする。来年も、よき音楽生活を。よいお年を。